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訳者まえがき:本文は、2005年の大会から施行されている"Regulations of
the International Chemistry Olympiad (IChO)"の全文を和訳したものである。翻訳に伴う解釈のずれを最小限にとどめるために,原文の表現が可能な限り訳文に反映されるように努めた。訳文の解釈に不明な点があるとき,あるいは原文と訳文の解釈に不一致があるときは、原文に基づいて判断されるべきである。
国際化学オリンピック大会(IChO)競技規則
- 大会の目的
- 組織および招待
- 代表団
- 主催者の義務
- 経費の負担
- 国際審査委員会 (International Jury)
- 国際審査委員会の責務
- 運営委員会 (Steering Committee)
- 国際情報センター
- IChO大会の準備
- IChO競技の運営
- 安全
- 競技の問題
- 採点
- 結果および表彰
- 最終規則
- 付則A (安全に関するもの)
- 付則B (Rフレーズ・Sフレーズの説明)
- 付則C (筆記シラバス,2004年改訂)
- 付則D (実験問題シラバス)
- 開催国の手引き
(2005年11月18日訂補 化学オリンピックWG)
総論
§1 大会の目的
国際化学オリンピック大会(IChO)は、化学での国際交流を推進することを目的とした、中学・高校生の競技会である。化学の問題を独力で創造的に解決することを通じて、化学に興味を持っている生徒達の活力を高めようとするものである。IChOは、多くの国々から集まった若い生徒達が友好関係を築くことを支援し、国際理解と協力を促進する。
IChOの組織
§2 組織および招待
- IChOは、原則として毎年7月初旬に参加国のうちの1ヶ国で開催され、その開催国の教育省または他の適当な機関(以下、主催者という)によって組織・運営される。
- 主催者は、前回のIChOに参加したすべての国を招待しなければならない。次のIChO参加への招待状は、大会の前年の11月までに各国に送らなければならない。招待された国は、主催者の要請に従って IChOへの参加を確認しなければならない。
- さらに、他の国々がIChOに参加を申し入れることができる。しかし主催者は,続く2回のIChOの主催者との合意が得られた時だけ、申し入れた国々を招待することができる。新たにIChOに参加しようとする国は、生徒がIChOに参加する前に、オブザーバーを2年連続して派遣しなければならない(§3(5)も参照)。
§3 代表団
- 各参加国の代表団は、4名の競技者と2名の同伴者(メンター, mentor)で構成される。各国は代表団の中に1名のオブザーバー (scientific observer) を含めることができる。
- 競技者は大学生であってはならない。化学を専門としていない中学校または高等学校の生徒だけが競技者となれる。もし競技者が大会の年の5月1日以前に高等学校を卒業している場合には,卒業した年月を主催者に知らせなければならない。さらに、大会が開催される年の7月1日時点で20才未満でなければならない。競技者は、代表となる国のパスポートを所持しているか、またはその国の中学校または高等学校の教育課程に1年間以上在籍していなければならない。代表団は全員,開催国への往復および開催国滞在期間中の医療保険に加入していなくてはならない。
- メンターは、国際審査委員会(§6参照)の一員となる。メンターの1人は、代表団の団長となる。
- メンターの役割は次の通りである。
- 生徒が本節の(2)に記した条件を満たしていることを保証しなければならない。
- 英語の問題文を生徒の母国語に翻訳できなければならない。また、問題を審査し、生徒の答案を採点できなければならない。
- 国際審査委員会の委員長に対して異議を申し立てる権利がある。そして,必要なときには,国際審査委員会の次の会議でその問題を解決するよう求める権利がある。
- 主催者に招待され,将来のIChOに参加しようとする国は,オブザーバーを1名派遣することができる。
§4 主催者の義務
- 主催者は次の各項に記したものを提供する。
- IChOの日程表。
- 到着日と出発日に、開催国の定める空港/駅での送迎。
- 本競技規則に沿った大会の運営。
- 大会プログラムに関する全参加者の傷害保険。
- 競技に先立って,メンターが実験試験に使用する実験室と実験器具をチェックする機会。
- 安全規則の遵守に関する手配。
- 閉会式で授与されるメダル、証明書、賞。
- 大会終了後6ヶ月以内に印刷またはCD-ROMで大会報告書を配布すること。
- 主催者は大会の前年の12月に開催国で運営委員会を開催しなければならない。開催国は旅費の一部を負担する。
§5 経費の負担
- 参加国は、生徒と同伴者の、指定された空港または駅まであるいは大会開催地までの往復の旅費を負担する。
- すべての参加国は参加費を支払わなければならない。参加費の額は,国際審査委員会が定める。
- すべての競技者および国際審査委員の宿泊費,食費,交通費を含めて、プログラムに関連するその他の費用は,すべて主催者が負担する。
- 次回の化学オリンピック大会の主催者は2名のオブザーバーを現IChOに派遣できる。その費用は,(3)に記した場合と同様に,現主催者が負担する。
IChOの組織・機関
§6 国際審査委員会 (International Jury)
- 国際審査委員会は委員長と委員から構成される。委員長は主催者によって指名される。国際審査委員会の委員は、各国代表団の2名のメンターと運営委員会(§8参照)の委員長から構成される。
- 国際審査委員会の委員長またはその代理は、当該大会に関する国際審査委員会のすべての会議を招集し、議長を務める。
- 通常の国際審査委員会またはその分科会の決議は、委員の少なくとも75%の出席のうえ、投票の過半数で成立するものとする。各参加国は、1票の投票権を持つ。競技規則の変更は、国際審査委員会の通常の会議でのみ行われ,全投票の3分の2の賛成を必要とする。賛否同数の場合は、委員長の票により決定する。国際審査委員会の決定は、主催者と参加者の双方に対して拘束力を持つ。
- 国際審査委員会の公式使用言語は英語である。
§7 国際審査委員会の責務
- 国際審査委員会は次の各項を行う。
- 競技規則にのっとって、実際の競技とその監督にあたる。
- 主催者の提示する競技問題、その解答および採点基準について事前に検討し、意見を述べ,変更がある場合はこれを決定する。
- 答案の採点を監督し、すべての参加者が同じ基準で採点されることを保証する。
- 受賞者を決定し、競技者への賞品と賞状を決定する。
- 競技をモニターし、今後のIChOのために、競技規則,組織および内容の変更を提案する。
- 参加者あるいはチーム全体を競技から除外するかどうかについて決定を下す(§11(7) も参照)。
- IChOの運営委員会の委員を選出する。
- IChOで生じる化学に関連する特定の問題を解決するために、ワーキンググループを設置することができる
- 国際審査委員会の委員は次の各点を遵守しなければならない。
- IChO会期中に得るいかなる関連情報についても専門委員として守秘義務を負い、いかなる参加者の手助けもしてはならない。
- 採点とその結果について、審査委員会が発表するまで秘密にしておかねばならない。
- 国際審査委員会のワーキンググループのメンバーは、IChO参加国やIChO競技に関心を持つ人々の中から選ばれる。ワーキンググループは、会合を行って問題を検討し、運営委員会にその討議の結果を提出する。
§8 運営委員会 (Steering Committee)
- 国際化学オリンピック大会の運営に関する長期にわたる業務は、運営委員会が調整を行う。
- 運営委員会の委員は国際審査委員会によって選出される。委員は各地域の代表(ヨーロッパから3名、南北アメリカから1名、アジアから1名,環太平洋地域から1名)であり,任期は2年である。2期を超えて連続して選ばれることはない。これに加えて,運営委員会は
1〜3名の特定分野の専門家を任期1年の委員として選ぶことができる。
- 運営委員会には、3人の職権上の委員を置く。
- 現IChO会長
- 前IChO会長
- 次の2回のIChOの代表者
- 運営委員会は運営委員長を互選で選ぶ。委員長は次の任務を行う。
- 運営委員会の会議を招集し,議長を務める。
- 国際審査委員会の事業会議を招集し,議長を務める。事業会議は,将来のIChOに関する全般的な問題を審議する。
- 運営委員会は、会議の主催者の了解を得た上で、投票権を持たないゲストを会議に参加させることができる。
- 特別な理由から必要が生じた場合に,国際審査委員会の特別会議を招集することができる。
- 運営委員会は次の任務を行う。
- IChOの組織運営を監督する。
- 国際審査委員会に議題を提案する。
- 運営委員会は、IChOに関して,国際審査委員会の責務に抵触するようないかなる決定をも行うことはできない(§7および8を参照)。
§9 国際情報センター
国際化学オリンピック大会の国際情報センターでは,国際化学オリンピックの開催当初から現在に至るまでのIChOの全資料を収集し、(必要な時に)提供している。センターのオフィスはスロバキアのブラチスラバにある。
競技会
§10 IChO大会の準備
- 主催者は、競技会の開催年の1月までに、英語で書かれた準備問題集をすべての参加国に配布する。準備問題は、生徒が安全面も含めて(§12と付則"B"参照)、競技試験の形式と難易度を理解できるように配慮されていなければならない。付則"C"に従い、レベル3のテーマは、予備問題の中に含まれていなければならない。準備問題にはすべてSI(国際)単位系を用いること。
- 準備問題集中の筆記問題と実験問題の総数はそれぞれ25問および5問以上でなくてはならない。
- 主催者が準備問題集の中に含めることのできるレベル3(付則C)の筆記問題は3つの分野までであり、これらの分野から少なくとも6問を準備問題集に含めなくてはならない。もし出題に際して十分な背景(化学式、グラフ、構造、数式など)が説明されていれば、レベル3の項目をレベル2と見なすことができる。
- 主催者がレベル3の実験テクニック(付則D)を含む実験問題を出題する場合には、実験の準備問題の少なくとも1問でそのテクニックについて述べていなければならない。
- 訓練またはその他の特別指導は、IChOチームを含む50名以下の選ばれた生徒に対して行うことができ、2週間を超えてはならない。
§11 IChO競技の運営
- 競技は、2部からなる。
- 第1部は実技(実験)試験である
- 第2部は筆記試験である。
- 各部には、4〜5時間が割り当てられる。第1部と第2部の間に、少なくとも1日の休憩をはさむ。
- 競技者は、関連するすべての情報を、自分の選んだ言語で受けることができ、また、その言語で答案を書くことができる。
- メンターが競技問題を検討するために受け取ってからは、競技者と連絡を取ってはならない。競技問題に関するいかなる情報も、直接であれ間接的であれ、競技前および競技中に競技者に伝えてはならない。
- 携帯用電卓が主催者から提供されない時は、プログラム機能のない携帯用電卓であれば、問題を解くために使ってもかまわない。
- すべての参加者は、主催者から発表された安全に関する規則を遵守しなければならない。
- 以上の各項目(§3第2項、§10第4項、§11第4, 5および6項)のいずれかに違反した場合には、競技の全部もしくは一部から除外される。
§12 安全
- 実験問題の部が行われている間中、競技者は実験着と保護眼鏡を着用しなければならない。競技者は、各自、実験着を持参してくること。実験中のその他の保護具は、主催者が用意する。
- 液体を扱うときは、競技者に必ず安全ピペッターか測容器を与えなくてはならない。口でピペットを吸うことは厳禁である。
- 非常に有毒な物質(T+表示)の使用は厳禁する。有毒物質(T表示)の使用は薦められないが、特別な注意を払うなら使ってもよい。R45、R46、R47の分類に属する物質は、いかなる状況でも使用してはならない(これらの分類の定義は付則"B"参照)。
- 主催者は、実験の準備問題および競技問題で使われる試薬を明記した試薬リストを提供する。試薬のリストには、物質の必要最大限の量や、溶液の場合は最大濃度を記載しなくてはならない。リストに記載されたあらゆる有害物質について、安全な取り扱いのための詳細な説明を付記しなければならない。そのリストは準備問題集(§10参照)と一緒に配布されなければならない。
各参加国は、3ヶ月以内に特定の試薬の使用に関して具体的な異議を申し立てることができる。申し立てがない場合は同意したものとみなす。主催者は、いかなる異議に対しても納得いくように、リストを改訂することに努めなければならない。リストの最終改訂版は、化学オリンピック大会の開始時に各国代表団のリーダーに配布される。
- 生徒の安全と試薬の取扱いや廃棄について、推奨される事項の詳細は、付則A1、A2およびBを参照されたい。
- 付則A1: 生徒のための実験室安全規則
- 付則A2: IChO開催国のための安全規則および勧告
- 付則Bは次の内容からなる
- B1: 有害性警告シンボルマークおよび害の内容指定とその説明
- B2: R-評価とS-対策: 危険の内容(R)と安全のためのアドバイス(S)
- B3: 危険を示すシンボルの説明(学校で試薬を使うためのもの)
§13 競技の問題
- 主催者は、有能な専門家/作題者による競技問題の作成に責任を負う。作題者達はIChO科学委員会の委員となる。作題者は、正解と採点基準を提案する。
- 問題、正解および採点基準は、国際審査委員会に提出され、検討の上、承認される。作題者は検討の間、同席しなければならない。
- 国際審査委員会の委員長は、問題検討の進行役を科学委員会の委員長に委ねることができる。
- 筆記問題と実験問題の長さは,答案用紙を含めて,なるべく短くすることとし、合わせて25000字を超えてはならない。各問題にはすべてSI(国際)単位系を用いること。
- 実験の部は次の各条件を満たしていなければならない。
- 実験の部は少なくとも2つの独立した問題を含まなくてはならない。
- スタッフの主観に基づく採点は、たとえ一部でも行ってはならない。
- 定性分析化学の問題を解くときには、競技者は皆同一の物質を与えられなければならない。
- 定量分析化学の問題を解くときには、各競技者は同じ物質で濃度の異なる試料を与えられなければならない。
- 定量分析の問題を採点する際には,競技者達の測定の平均値に基づいて基準値を決めてはならない。
- 定量分析の問題の配点の大部分は競技者が報告した平均値に対して与えられなければならないが、一部分は問題に 直接関連した式、計算あるいは説明に対して与えることができる。測定の再現性に対して配点してはならない。
§14 採点
- 筆記問題には最高60点、実験問題には40点、計100点が配点される。
- 競技問題は、出題者とメンターによってそれぞれ独立に採点される。生徒が同じ誤答で二度減点されることのないように、問題の流れを追って採点しなければならない。次いで双方の採点を比較するが、出題者の採点が先に提示される。互いに検討し、双方の合意により各競技者の最終得点を決める。採点した答案用紙の原本は主催者が保管する。
- 国際審査委員会は、結果を検討し、最終得点を決定する。
- 成績処理の過程で間違いが生じる可能性に備えて、主催者は、閉会式の前に、各生徒の合計点のリストをメンターに渡さなくてはならない。
§15 結果および表彰
- 競技の公式結果と授与されるメダル数は、国際審査委員会によって決定される。
- 授与される金メダルの数は全競技者の8%から12%の間、銀メダルは18%から22%、銅メダルは28%から32%の間である。各メダルの正確な数は名前を伏せた採点結果を参照して決定する。
- 各受賞者は、メダルと表彰状を主催者から受け取らなければならない。
- メダルに加えて、他の賞を授与することができる。
- メダルはもらえなかったが、どれか一つの問題で満点を取った競技者には、「敢闘賞」が与えられる。
- すべての競技者に、参加証明書が渡される。
- メダルを受賞しなかった競技者は、表彰式でアルファベット順に紹介される。
- チームの順位付けは行わない。
- 主催者は、最終報告書の中に、完全な成績一覧を掲載しなければならない。
§16 最終規則
- 大会に参加する者は、全競技過程を通じてこれらの規則に従うこと。
- この競技規則は、1999年7月にバンコック(タイ)で開催された国際審査委員会で承認されたものであり、1994年にオスロ(ノルウェー)で承認された旧規則を改訂したものである。
- 本競技規則は1999年9月1日より施行される。競技規則の変更は、国際審査委員会によってのみ行われ、適格多数(全参加国の3分の2の賛成)を必要とする。
(以上)
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2005年11月18日訂補
化学オリンピックWG |